同じトレーニングをしていても筋肉のつき方は人によって違います。すぐに筋力がアップする人もいれば、なかなか筋肉がつかないという人もいますよね。理想のカラダを手に入れるためには、ただがむしゃらにトレーニングするのではなく、筋肥大のメカニズムやポイントを理解しておくことが大切です。そこで今回は、筋肉の構造やメカニズム、筋肉がつきやすい人とつきにくい人の違いや原因、対処法について解説します。
筋肉の構造
まずは、筋肉の構造から説明します。一般的に私たちが「筋肉」と呼んでいるのは、骨格に沿って付いている「骨格筋」を指します。
骨格筋は、「筋繊維(きんせんい)」と呼ばれるたくさんの繊維が集まって束(筋束)になった組織です。この筋繊維の細胞質には「筋原繊維(きんげんせんい)」と呼ばれるタンパク質の束が詰まっています。これが、筋肉の主成分であるタンパク質です。
筋肥大のメカニズム
この筋繊維が肥大して体積が増加することを筋肥大と呼びますが、筋肥大は筋繊維が破壊と修復を繰り返すこと(超回復)で起こります。
筋繊維は非常に脆いため、筋肉が刺激を受けると筋線維の一部が破断します。傷ついた筋肉は適切な栄養と休養を与えることで修復されますが、このとき筋線維は元より少し太くなって修復されます。これを超回復といい、これを繰り返すことで筋肉の体積が増加し筋力がアップする仕組みです。
超回復にかかる時間は筋肉の部位によって異なりますが、目安として24〜72時間程度かかると言われています。筋肉が回復する前にトレーニングを再開すると再び筋肉が破壊され、怪我などに繋がる可能性もあります。ですから、筋力アップのためには超回復のタイミングを意識して適度に休息を取りながらトレーニングを行うのがポイントです。トレーニングの効果的な頻度やタイミングについては、さらに詳しく解説した記事もあるのでぜひあわせてチェックしてください。
▶トレーニングは週何回行うべき? 筋トレの頻度&効果的なタイミング
筋肉の付きやすさの違い
筋肥大のメカニズムについては理解できましたが、同じ食事や運動をしていても簡単に筋肉がつく人もいれば、なかなかつかない人もいます。なぜ人によって筋肉のつきやすさが異なるのでしょうか。
トレーニングの世界では筋肉がつきやすい人を「イージーゲイナー」、反対に筋肉がつきにくい人を「ハードゲイナー」と呼びます。イージーゲイナーとハードゲイナーの違いは体質による影響が大きいと言われていますが、いくつかの要因に分けて考えることができます。
遺伝による影響
一つは遺伝による影響です。筋線維は「速筋線維(そっきんせんい)」と「遅筋線維(ちきんせんい)」の2つに分類することができますが、この割合は遺伝子によって生まれた時から決まっています。筋肉量を増やすためには速筋線維を積極的に動かすことが大切なので、この割合が多ければ多いほど「イージーゲイナー」である可能性が高いと言えます。
ホルモンによる影響
一般的に女性は男性よりも筋肉がつきづらいと言われていますが、これは性ホルモンが筋肉の成長に影響を与えるからだと考えられます。男性ホルモンと呼ばれる「テストステロン」には筋肉の合成を促進する作用があり、男性は女性よりもテストステロンの分泌量が多いため筋肉がつきやすい傾向にあります。
年齢による影響
筋肉のつきやすさは、年齢によっても異なります。テストステロンの分泌量は10~20代前半にピークを迎え、20代後半からは徐々に減少していきます。
このように人によって筋肉の付きやすさに違いがある要因はいくつか挙げられますが、これらの影響はあくまで一つの要因に過ぎません。体質が筋肥大に影響すること自体は否定できませんが、適切なトレーニングや生活習慣の改善によって克服できるので諦めずに頑張りましょう。
効率的な筋力アップのコツ
遺伝や性別などといった要因のほかにも、筋肉がつきづらくなる原因は考えられます。トレーニングの方法が不適切だったり栄養不足が原因となっている場合には、トレーニング方法や食事内容を改善することで解決できます。
筋力アップに大切なのは「運動・休養・栄養」の3本柱です。ここでは、筋肉がつきづらい人でも効率的に筋力をアップさせるためのコツをこの3本の柱に沿って紹介します。
<運動>トレーニングの改善
・有酸素運動と無酸素運動を組み合わせる
筋トレにウォーキングやジョギングなどの有酸素運動を組み合わせることで、より効率よく体を鍛えることができます。脂肪燃焼効率もアップし、ダイエットにも効果的です。筋トレをしない日に有酸素運動をするのもおすすめです。
・適度な負荷と回数を意識する
自分のレベルに応じた適度な負荷をかけてトレーニングすることは、筋トレ効果を高めるために非常に重要です。負荷や回数が十分でないと効果が得づらいのはもちろんのこと、負荷が過度に高すぎるのもNGです。負荷は軽くできる重量ではなく、1セット10~12回で限界がくる程度の重量がベストです。基本的には1種目3セット行います。最終セットでは「これ以上できない」というところまで筋肉をしっかりと追い込みましょう。
・時間と頻度を意識する
トレーニングをする時間と頻度も大切です。一般的に1回のトレーニングの時間は、30分~1時間程度を目安に行うと効果的だと言われています。やればやった分だけ効果が出ると考えてたくさんトレーニングをしようとする人もいますが、トレーニングのやり過ぎは筋肉にとって逆効果になる可能性もあります。
トレーニングを行う時間や頻度について詳しく解説した記事もあるのでぜひチェックしてください。▶筋トレの頻度&効果的なタイミング
<休養>睡眠の改善
・筋トレ後は2~3日の休息をとる
筋力トレーニングを行う理想的な頻度は週に2~3回と言われています。前項でも説明した通り、筋肉の超回復には24~72時間(部位によって異なる)かかるため、このタイミングを意識して休息をとる必要があります。毎日トレーニングを行う場合は、日によって筋トレする部位を変えるなど工夫しましょう。
・睡眠時間をしっかりと確保する
睡眠時間を確保することも非常に大切です。深い睡眠をとることで、成長ホルモンが分泌されます。トレーニングによって傷ついた筋繊維は、この成長ホルモンによって睡眠中に修復します。そのため負荷の高いトレーニングをした分だけ、長時間の睡眠が必要になります。1日7時間を目安に、できるだけしっかりと睡眠時間を確保するように意識してください。
<栄養>食事の改善
・エネルギー不足に注意する
なかなか筋肉がつかないという人に多いのが、エネルギー不足です。食事制限などをしてエネルギー不足に陥ると身体がエネルギー源として筋肉内にあるアミノ酸を放出し、それによってタンパク質の分解が増えて筋肉量が減ってしまう可能性があります。筋力をアップするためにはたんぱく質だけでなく、適度な炭水化物や糖質も必ず摂取する必要があります。必要な栄養素をバランスよく摂取できるよう心がけましょう。
筋トレに必要な栄養素や具体的な食材、おすすめの食事メニューを紹介した記事もあるのであわせてチェックしてください。
・タンパク質を意識して摂取する
前項でもお話しした通り、筋肉の主成分はタンパク質です。せっかくたくさんトレーニングをしても、タンパク質が不足していると十分に合成が行われず筋トレの効果が現れにくくなります。ダイエットや筋力アップを目指す場合には1日に体重1kg当たり約1.2g~1.6g程度のタンパク質を摂取するのが理想ですが、この量のタンパク質は意識していなければなかなか摂取することができません。筋トレ中はタンパク質を多く含む食材を意識的に取り入れ、効率良くタンパク質を摂取しましょう。
タンパク質を多く含む食材や食品、さらにはプロテインについて解説した記事もあるのでぜひあわせて参考にしてください。
筋肉のつきやすさは人によって異なるものの、トレーニングを工夫したり食事や生活の改善することによって十分に筋トレ効果を高められそうですね。できることから意識して、効果的に筋力をアップさせましょう!
この記事を監修したのは…
田中和寿さん
サッカー Jリーグ 「横浜マリノス」に30年間在籍。アスリートの育成やトレーニングに携わる。マリノス退団後は、プロゴルファーを中心にツアー帯同やパーソナルサポートをしながら、順天堂大学・小林弘幸教授の自律神経や呼吸に関する研究グループに在籍。視覚刺激における運動機能改善などの研究を行う。鍼灸按摩マッサージ指圧師や柔道整復師、アスリートヨガ、ピラティスインスティテュートなど数々の国家資格や認定資格を保有。現在はタイガージムのトレーニングの監修を行っている。